横沢 正幸
サブテーマリーダー
早稲田大学/人間科学学術院
自然および農業生態系の気候変動影響をモデルを用いて評価する研究を中心に行ってきました。本サブテーマでは、物理的環境、生態系それにステークホルダーの3者間相互作用を考慮した影響評価とその状況に対応した適応策の最適化について研究を行っています。専門分野は生態系モデリング。
概要
水資源、インフラそして食料(農業)はわれわれの生存・生活にとって最も基本的かつ重要な資源である。しかしこれらの資源利用は相互に依存関係にあり、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないというトレードオフ関係、あるいは資源を利用するステークホルダー間の対立(コンフリクト)が存在する場合がある。そして、このような状況は気候変化によってますます圧力がかけられている。それぞれの資源利用に対する気候変化や社会経済変化が及ぼす影響については、これまで多くの研究がされてきており、それらに対する適応計画も模索されている。しかし、水資源、インフラ、農業の連環・相互作用(ネクサス)を考慮した気候変化影響の評価ならびに適応計画の策定についての研究はいまだ緒についたばかりである。
このような背景に鑑みて本研究の目的は以下のとおりである。まず、地方公共団体や流域を対象として、本戦略的研究開発課題で実施される他のテーマ、サブテーマおよび既存研究の成果から得られる水、インフラそして農業に関する気候変化影響の評価ならびに適応計画の知見に基づいて、それらネクサスの統合評価モデルを開発する。モデルは、気候変化環境下における各資源の時間的空間的動態を記述するサブモデルと各資源を利用するステークホルダーの関心や意思決定を記述するサブモデルから構成される。
そしてこのモデルを用いて、各資源に及ぼす気候変動影響評価の結果に対する個別の適応策について、資源利用ステークホルダー間の相互作用を考慮した場合の適応計画の整合性および有効性について統合的分析・評価を行う。例としては、同じ流域に属する農業セクターの適応計画と都市生活インフラの適応計画が共通の水資源を介して両立可能か否か、トレードオフやコンフリクトの存在を分析・評価する。さらに、トレードオフやコンフリクトが存在する場合には、その解決方向ひいてはシナジーの方策を提案するフレームワークの構築を目的とする。
目標
- 地方公共団体や流域を対象として、本戦略的研究開発課題で実施される他のテーマ、サブテーマおよび既存研究の成果から得られる水、インフラそして農業に関する気候変化影響の評価ならびに適応計画の知見に基づいて、水・インフラ・農業ネクサスの統合評価モデルを開発する。
- 統合評価モデルを用いて、モデル地域を対象として、気候変動影響評価の結果ならびにその適応策を実行した際に、対象とする水資源・インフラ・農業ネクサスにどのような状況(トレードオフやコンフリクト)が生じるかを推計することにより、適応策の整合性および有効性について分析・評価を可能にするフレームを作成し具体的事例について分析を行う。
研究対象と計画
流域を対象として、水資源・インフラ・農業ネクサスについての統合評価モデルを作成する。作成する統合評価モデルは2つのサブモデルから構成される。
一つは、対象域における水資源、インフラ整備、農耕地などの地理的配置状況に基づいて、気候変化が各資源に及ぼす影響とその適応計画がネクサスへ与える影響を推計する影響予測サブモデルであり、流域における水資源量分布を推計するとともに、水資源の利用に応じた作物生産性をシミュレートする。
もう一つのサブモデルは、エージェントベースモデル(ABM)手法を取り入れたステークホルダーの意思決定・行動を推計する人工社会モデルである。各資源を利用するステークホルダーをエージェントとして、気候変化環境の下での便益に基づいて行う行動や意思決定過程をモデル化して、エージェント集団の相互作用を通じて、ステークホルダーの意思決定・行動をシミュレートする。
二つのモデルを結合した統合評価モデルを用いて、水資源・インフラ・農業ネクサスにおいて動的に変化するステークホルダーの行動を逐次反映しつつ、その結果生じるトレードオフやコンフリクト、ひいてはシナジーに向けたさまざまな適応計画に対する統合分析・評価を行う。具体例としては、同じ流域に属する農業セクターの適応計画と都市生活インフラの適応計画が共通の水資源を介して両立可能か否かの分析、トレードオフやコンフリクトの存在を評価する。
想定している適応策
- 農業生産性を維持するための農耕地における水管理プロトコルの変更
- 利用可能水資源を維持するための河川流域における水利用の時間的空間的変更
- 防災とのシナジーを目指したインフラの整備
- ステークホルダーの意思決定を支援するナッジの提案